A子さんは２、３日以来、胃の辺りが痛むので医師の診察を受けた。胃カタルだと診断され薬だけ飲んで休んでいたが、なかなか痛みが止まらない。
そこで翌日、他の医師の診察をうけたところ、盲腸炎とわかり、直ぐに手術を受けたが大分手遅れになっていた。生命はとりとめたが余病を併発して、全快まで半年くらいかかってしまった。
A子さんは、医師の誤診を理由に、治療がながびき、余計にかかった費用として、医師に損害賠償の請求ができるのであろうか。
明らかに過失による誤診の場合、損害賠償請求できる
A子さんの場合、胃カタルと診断されたのは結果からみれば誤診かもしれないが、診察時の症状が別の医師の診断を受けても胃カタルと診断されるような症状であったのなら、医師に誤診の責任を問うことは難しい。翌日、他の医師の診察を受けて盲腸炎だということがわかったかもしれないのである。
もっともA子さんが初めに診察を受けたときに、普通の医師なら当然盲腸炎と診断すべき症状であったのに医師がこれに気づかず不注意にも胃カタルと診断したのであれば、これは明らかに法律上過失がある誤診であり、A子さんは医師に対して、誤診によって治療が遅れ余計な費用がかかったことについて不法行為上の損害賠償請求ができることになる。
医師の過失の立証はなかなか困難
その場合は実際に余計にかかった費用のほかに、死の危険にさらされたということについて、精神的損害として慰謝料も請求できるが、実際問題としてこの立証はきわめて難しい。
一般に医師の治療上の過失として、注射、手術、レントゲン放射、輸血などの失敗や、適切な処置をとらないで放置したことなど、よく問題とされる。これらの場合には、医師の過失を認めた裁判例もいくつかある。
ただ医師の立場としては、治療のためにはある程度の危険を冒さなければならないこともあり、その危険が実際に発生したからといって、その度に責任を追求されたのでは、思い切った治療もできないということはいえるのである。
しかし医師の治療は患者の生命に関するものであり、その点で医師には高度の注意義務が課せられているのである。
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