Aは、Bに対して商品の売掛金がすでに合計900万円たまっていた。
Bは個人商店で、その店舗は営業主であるB名義のものであるが、二十三重に抵当権が設定され、その店舗を処分しても、債務額に満たないほど、いわばめいっぱい借金があった。
Aは再三、Bに売掛金を請求したが「今しばらくお待ちいただきたい」との一点張りであった。
ところが、AがBの財産状況を調査したところ、右店舗のほかに妻名義の宅地(現在貸地として他に貸している)が150坪あることと、BがCに対して売掛代金が450万円を有していることがわかった。
この財産を差し押さえられないか。
妻の財産を差し押さえることはできない
債権回収では債務者の財産を十分に調べることである。本例のように意外に財産はあるものである。
さて本例の妻名義の宅地は、実際は夫Bの財産であるようにも推測されるのだが、これをくつがえすに足りる証拠もない。しかも、夫の借金で、妻が連帯責任を負うのは「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者より債務を負担したとき」である。
この場合には、夫婦の他の一方は、その債務について「連帯責任」がある。
しかし、AのBに対する売掛金は、日常の家事によって生じた債務ではないことは明らかなので、妻名義の財産を、Bに対する債権で差し押さえできないことは明白である。
また、問題の宅地は妻名義であるわけだが、もしも、この宅地が、もともとBの所有名義であり、最近あわてて妻名義に書き換えたようなものであれば、当時のBの資産・経営状態などからみて、明らかに差押えをまぬがれるためのものと思われる。
もし、そうであればAは、これを詐害行為として、Bの妻名義とした所有権移転登記の抹消、所有権譲渡の取り消しを求めることができる。
そして、Bの財産としてAは改めて差し押さえすることができる。ということになっている。
売掛金を仮差押えすることもできる
本例の場合AはBが有するCに対する売掛金債権を自分に譲渡するようにBに交渉することができる。
第三者に対する債権は債務者(ここではB)が任意に譲渡してくれなければ、訴訟以外の方法ではどうしようもないのである。
そこでAは、裁判所に対して、債権者として、右BがCに対してもっている売掛金債権の仮差押えを申請し、売掛代金請求の訴を起こすと良い。
この訴訟は、Aの勝訴であることは明らかであり、その結果、AはCから売掛金を取れるということになるのである。(民法466条以下、民事執行法155条以下)
債務者の財産がなくなりそう。
Aは弱腰会社に金を貸したがなかなか返済せず、支払いの催促をしていま
すが、先方は業績が悪く倒産しそうである。ぐずぐずしていると財産がなくなりそうだ。
訴訟をやっていては間に合わない。もちろん訴訟もするが、至急、保全の手を打ちたい。このような場合にどういう方法をとればいいのだろう。
保全命令の申立てをする
我が国の訴訟は手っ取り早くいかないので訴訟の途中で財産を隠したり、倒産すると、せっかく勝訴しても実効を挙げられない。
そこであらかじめ債務者の財産を捕まえておく必要がある。これが仮差押えである。
一方、仮処分というのがあり、これは、主として自分の所有する物の返還や明渡しを請求する場合に、その物の所持人や占有状況の変更を防止する目的で行われ、金銭貸借の場合は、譲渡担保物の明渡しや引渡しに用いられる。
民事保全法では仮差押え命令・仮処分命令をあわせて保全命令といい、保全命令の申立てを裁判所に提出する。
保全命令の申立ては、その趣旨、保全すべき権利または権利関係、および保全の必要性を明らかにする必要があり、裁判官に一応確からしいという心証を与える程度の証拠を提出しなければならない。
担保の提供が必要な場合もある
こうして、保全命令を出してもらうという段取りになるが、債権者の損害を保証するために、担保を立てさせて保全命令をだし、あるいは一定期間内に担保を立てることを、保全執行の条件として保全命令を出す場合がある。
この担保は通常事件が解決するまで供託することになる。
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